出版社X社は、自社の週刊誌の翻訳本を海外に輸出することを検討していて、諸外国における著作権保護レベルについてX社の法務担当者が発言している。ア〜エの発言を比較して、最も不適切と考えられるものはどれか。
ア 「当社の週刊誌の翻訳本は、日本で発行された著作物ではありますが、輸出先の国において無断で複製された場合には、その輸出先の国の著作権法によって保護されることになります」
イ 「輸出先の国がどのような保護レベルにあるかを検討するにあたっては、まずどのような条約に加盟しているかを確認するといいね」
ウ 「著作権に関する条約といえば、ベルヌ条約と万国著作権条約が有名だね。TRIPS協定では著作権の保護については規定されているが、著作隣接権の保護については規定がないね」
エ 「ベルヌ条約は無方式主義を採用し、万国著作権条約は方式主義を採用しているけど、万国著作権条約を締結している国のうち、ベルヌ条約を締結していない国は数カ国しか存在しておらず、現在では『C』マークを付す意味はほとんどなくなっているね」
(22年11月実施)
【解説】
著作権・著作隣接権に関する国際条約の問題です。
「とるじいや」さんのサイトに、分かりやすくまとめられていますので、このページを見ればすべて回答が分かります。
ア
この場合は、複製行為が行われた国の法律を準拠法として適用すると考えられています。
これを「属地主義」といいます。
↓
適切
イ
現在は、かなりの国がベルヌ条約に加盟し、保護水準が似てきていますが、すべて同じではありません。
ですので、このような調査は当然に必要でしょう。
↓
適切
ウ
TRIPS協定の特色として、特許庁HPにまとめられています。
TRIPS協定の概要
(1)基本原則
1-1. ミニマム・スタンダード
……協定の保護水準は、加盟国が遵守すべき最低基準(ミニマム・スタンダード)。
1-2. パリ条約規定の準用
1-3. 内国民待遇、最恵国待遇
(2)保護基準
2-1. 著作権・著作隣接権
a.コンピュータ・プログラム保護。
b.実演家、レコード製作者、放送機関の保護。
c.著作物のレンタル権。
2-2. 商標
a.保護対象・保護期間の明確化。
b.周知商標保護:非類似商品・サービスであって商標権者と関連性を示す場合は保護。
2-3. 地理的表示
a.地理的表示:商品の品質・名声が、原産地の領域・土地に由来する場合に、その土地の原産であることを特定する表示。
b.地理的表示の保護。
c.ワイン・スピリッツの追加的保護。
d.今後の改正検討
2-4. 意匠
a.保護対象・期間の明確化。
2-5. 特許
a.特許対象
b.発明地差別の禁止。
c.保護期間は出願日から20年以上。
2-6. 契約における反競争的行為の規制
a.ライセンス契約などによる競争制限的な行為の規制。
(3)知的財産権の行使(エンフォースメント)
3-1. 一般的義務
a.知的財産侵害行為に対する効果的な行使手続の義務づけ。
b.不必要に複雑な手続、不合理な期間制限、不当な遅延を伴わない裁判手続、行政手続。
3-2. 水際措置
a.水際措置:知的財産侵害物品が輸入されようとする際、これを税関で差し止める手続。
b.商標権者及び著作権者は、適切な証拠があるとき、侵害品の通関の停止を関税当局に申し立てることが可。
(4)紛争の防止及び解決(第63〜64条)
a.加盟国は義務として国内法令をTRIPS理事会に通報国家間の紛争を未然に防止。
b.TRIPS協定違反を巡る国家間紛争に、WTO共通の新たな紛争処理手続を適用。
これらを見ますと、著作隣接権も保護されています。
↓
不適切
エ
万国著作権条約を締結している国のうち、ベルヌ条約を締結していない国は、現在ではカンボジアとラオスの2カ国です。
ですので、この両国で発行する著作物には注意が必要ですが、それ以外の場合なら、無方式主義のベルヌ条約が優先されますので、マルシーマークを付ける必要はありません。
このマルシーマークは、慣行として、いろいろなところで「付けなければならない!」と思われています。
しかし上記のとおり、法的意味はほとんどありません。
書かないと著作権が発生しないわけではありませんし、書いたからと言って特段保護が強くなるわけでもありません。
単なる著作権者は誰かを示す、目印程度の意味ですね。
ちなみに適切な表記方法は、「マルシー+著作権者名+第一発行年」です。
↓
適切
万国著作権条約 第3条〔保護の条件〕
1 締約国は、自国の法令に基づき著作権の保護の条件として納入、登録、表示、公証人による証明、手数料の支払又は自国における製造若しくは発行等の方式に従うことを要求する場合には、この条約に基づいて保護を受ける著作物であつて自国外で最初に発行されかつその著作者が自国民でないものにつき、著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともに(c)の記号を表示している限り、その要求が満たされたものと認める。(c)の記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げなければならない。
※(c)は、実際にはマルシーです
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