2012年8月27日月曜日

著作権等管理事業法の制定経緯に関する問題

【問題】
空欄[1]〜[4]に入る語句の組合せとして、最も適切と考えられるものはどれか。

わが国の著作権の管理事業は、60年以上にわたって、「昭和14年法律第67号(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律)」(仲介業務法)によって、その法的基盤が定められてきましたが、

1,業務実施の[1]により新規参入を制限していること
2,著作物の利用契約の媒介行為など、原著作者の利益が害されるおそれが低い形態までをも、「著作権ニ関スル仲介業務」として規制対象としていたこと
3,適用対象範囲が小説、脚本、楽曲を伴う場合における歌詞及び楽曲に制限されており、現在の著作物の利用実態に適応していないこと
4,行政庁の裁量権を広範に認める一方で、委託者及び利用者の保護のために必要な業務運営に関する規定が不十分であること

など、IT時代における多様な社会的要請に適合していないという指摘がありました。
 本法は、このような社会的要請に応えるため、仲介業務法を廃止し、新たな制度的基盤を確立するもので、

1,新規参入を容易にするため、[1][2]に改めること
2,「著作権ニ関スル仲介業務」の考え方を改め、委託者が著作権等を自ら管理している場合に準ずると考えられる形態を規制対象から外し、それ以外の管理形態のみを「著作権等管理事業」として規制対象とすること
3,利用実態の変化に対応して、適用対象範囲を著作権及び著作隣接権の及ぶすべての分野(著作物一般、実演、レコード、放送、有線放送)に拡大すること
4,委託者及び利用者の保護のために最低限必要と考えられる業務運営に関する規定を設けるとともに、著作物等の使用料が円滑かつ適正に設定されるよう、使用料規定の[3]の廃止にあわせて使用料規定に関する[4]を整備すること

などを内容としています。

(22年11月実施)


【解説】
著作権等管理事業法の制定経緯に関する問題です。

著作権等管理事業法


この問題文は、次のページに書かれているままですので、このページを読んで理解すれば、そのまま答えが分かります。

著作権等管理事業法の制定とその背景(文化庁)

管理事業法と仲介業務法の比較



よって解説するまでもないのですが、一応書いておきます。

[1]と[2]には、
「登録制」か「許可制」か、どちらかを選択して入れます。

仲介業務法第2条では、
著作権に関する仲介業務を為さんとする者は文部科学省令の定むる所に依り業務の範囲及業務執行の方法を定め文化庁長官の許可を受くべし
として、「許可制」を採っていました。

それが著作権等管理事業法に代わり、第3条で、
著作権等管理事業を行おうとする者は、文化庁長官の登録を受けなければならない。
と、「登録制」に改められました。


そして[3]と[4]には、
「協議・裁定制度」か「認可制」か、どちらかを選択して入れます。

仲介業務法第3条では、
前条の許可を受けたる者(以下仲介人と称す)は文部科学省令の定むる所に依り著作物使用料規程を定め文化庁長官の認可を受くべし之を変更せんとするとき亦同じ
として、「認可制」になっていました。

それが著作権等管理事業法第23条で、
(2項)指定著作権等管理事業者は、当該利用区分に係る利用者代表から、第13条第1項の規定による届出をした使用料規程に関する協議を求められたときは、これに応じなければならない。
(4項)文化庁長官は、利用者代表が協議を求めたにもかかわらず指定著作権等管理事業者が当該協議に応じず、又は協議が成立しなかった場合であって、当該利用者代表から申立てがあったときは、当該指定著作権等管理事業者に対し、その協議の開始又は再開を命ずることができる。
と「協議」の制度が設けられ、第24条で
前条第4項の規定による命令があった場合において、協議が成立しないときは、その当事者は、当該使用料規程について文化庁長官の裁定を申請することができる。
として「裁定」の制度が設けられています。

2012年8月21日火曜日

JASRACの音楽著作物の信託についての問題

【問題】
著作権の管理、利用、保護に関するア〜ウの記述を比較して、最も適切と考えられるものはどれか。

ア 原著作物たる楽曲の編曲・翻案権が音楽出版社に譲渡されている場合、二次的著作物の利用権をJASRACが管理することはできない。

イ 音楽著作物の編曲や翻案を許諾する権利は、たとえ契約書に編曲・翻案権が音楽出版社に譲渡されることが明記されていても著作権に留保される。

ウ 音楽出版社が、譲渡された音楽著作物の編曲・翻案権を行使する際も、著作者の同一性保持権に配慮しなければならない。

(22年11月実施)


【解説】
著作権等管理事業法に基づく「著作権等管理事業者」(本文ではJASRAC)の、音楽著作物の信託についての問題です。
背景には、音楽の著作物の著作権は音楽出版社に譲渡されることが一般的だ、という事情があります。
その点、言語の著作物(書籍)等とは異なっています。


二次的著作物の利用権(著作権法28条)は、JASRACの信託契約約款に特掲されているので、信託の対象になっていると解されます。

著作権法28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

JASRAC信託契約約款 第3条(著作権の信託)
委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において、委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法第28条に規定する権利を含むものとする。
(★著作権法第27条「翻訳権、翻案権等」が含まれていないことに注意!)

不適切


著作権法61条2項(著作権の譲渡)
著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

適切


著作者人格権は一身専属ですので、譲渡することはできません。
よって、音楽出版社に一切の著作権が譲渡されたとしても、著作者人格権たる「同一性保持権」は音楽出版社ではなく、著作者にありますので、注意が必要です。

適切


2012年8月20日月曜日

国際私法の「管轄」や「準拠法」についての問題

【問題】
日本法人であるX社では,米国法人であるY社と著作物の利用許諾契約を締結することを検討している。ア〜エの発言を比較して,この契約に関するX社の著作権部の担当者の発言として,最も不適切と考えられるものはどれか。

ア 「国際裁判管轄と準拠法は,それぞれ言葉は異なるが,一つの事件ではそれぞれが別の国となることはないので実質的には同じ問題と考えていいと思う。」

イ 「準拠法というのは,どの国の法律を適用することによって,国際的な私人間の法律関係を規律するかという問題だ。」

ウ 「国際裁判管轄というのは,簡単にいえば,どの国が裁判を行うべきかという問題だよ。」

エ 「この契約に関する準拠法をどこにするかは当事者の合意で決めることができるので,日本法を前提に問題を処理したいのであれば,契約書にその旨を明記しておくべきだ。」

(23年7月実施)


【解説】
国際私法の、管轄や準拠法についての問題です。
知識があるかないかが分かれ目でしょう。

日本における国際私法は、「法の適用に関する通則法」です。


用語の意味を、『法律学小辞典』(第4版)ではどう書かれているでしょう
か。
まず「国際裁判管轄」とは、

国際法上認められる国家の裁判権の範囲内において、当事者の公平、裁判の適正、迅速という手続法的な理念から裁判を行う範囲をさらに自己抑制したもの


次に「準拠法」とは、

国際私法によって、渉外的法律関係を規律すべきものとして決定された法


分かりにくい文章ですね……




国際裁判管轄と準拠法の関係については、次のページに詳しく書かれています。
国際裁判管轄と準拠法(レックスウェル法律特許事務所)

このページの最後に書かれているとおり、裁判管轄と準拠法は、別の国になることはあります。

不適切


問題文のとおりです。

適切


問題文のとおりです。

適切


問題文のとおりです。

適切


2012年8月19日日曜日

知的財産権侵害行為に対する差止請求についての問題

【問題】
知的財産権に基づく差止請求について甲と乙とが会話をしている。ア〜エの会話を比較して,最も不適切と考えられるものはどれか。


甲 「知的財産に関する差止請求をするためには現実に侵害行為が行われていることが必要でしょうか。」
乙 「特許権については侵害行為が現実に行われていない場合であっても,侵害のおそれがあれば差止請求が認められますが,著作権については侵害のおそれのみでは差止請求は認められません。」


甲 「差止請求とともに所定の廃棄・除却等の請求を行う場合は,廃棄・除却の請求分についても訴額の算定の必要がありますか。」
乙 「実務においては,廃棄・除却等の請求は差止請求とは別個独立に請求することができないこともあり,訴額を別途算定する必要はないとされています。」


甲 「知的財産権の差止請求権に関しては仮処分の申立をすることができますよね。」
乙 「できます。仮処分は,判決まで侵害行為が継続するおそれがある場合に,民事保全法に基づき裁判所が命ずる暫定的措置です。」


甲 「差止の判決が確定したのに,被告が侵害行為を停止しない場合は,どのような措置をとることができますか。」
乙 「執行裁判所に対し,確定判決を債務名義として執行文の付与を申し立て,それに基づいて間接強制を申し立てることができます。」

(23年7月実施)


【解説】
知的財産権の侵害行為に対して行える、差止請求についての問題です。
基本的に、条文どおりの、シンプルな問題と言えます。


著作権法112条(差止請求権)
1項
著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

不適切


著作権法112条(差止請求権)
2項
著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。

適切


問題文のとおりです。

適切


問題文のとおりです。

適切

2012年8月18日土曜日

【コラム】複製権を時効取得できるのなら……

ちょっと試験問題からそれて、コラム的に一つ書いてみます。

最近は、著作権に関する意識が高まり、人の書いたものを勝手に使ってはいけない、ということは、常識として周知されてきたように思います。
昔はそうではなかったわけで、何十年も前に書かれた本を見ると、他の人が書いた本にあった表現をそのまま自分の文章として使っているようなものも、現在以上に数多く見受けられます。それは、わざとコピーして使ったというよりも、現代なら著作権侵害として問題になるような使い方だとは知らずに、「参考文献」として使ってしまった、という場合が多いのではないでしょうか。

さて、そんな本を書いた人(Aさんとします)が、20年後、書店に行ってみると、自分の書いた本と同じことが書かれている本を見つけたとします。

人は、自分が他者の著作物を利用する際は「これくらいはいいだろう」と寛容になっても、他者が自己の著作物を利用する際には「そこまでやったらダメだよ」と厳しくなりがちです。

見つけた本の著者(Bさんとします)に対して、「おまえの書いた本は、俺の書いた本のパクリだ!」つまり複製権(もしくは翻案権)侵害だ、と主張したら、どうでしょう。

実は、Aさんの書いた本も、別の人が書いた本(C本とします)のパクリだったのです。Aさんにはその自覚がなかっただけです。Aさんが元にしたC本は、30年も前に出版された本で、そんな古い本に著作権が関係あるとは、Aさんは全く知らなかったのです。完全に自分の著作物だと考えています。
これまでも、ネットで自分の本の内容を勝手に掲載していた相手に対しては、そのつど警告を発し、相手に削除させる、ということが何度かありました。
その間、Cさんが名乗り出てくることは、ありませんでした。

Bさんは、実際はAさんの本をパクった(依拠して複製or翻案した)のでしたが、たまたま、C本の存在を知り、
「私はAさんの本に依拠したのではない。C本に依拠して書いたのだ。Aさんの本には、創作性がなく、著作権はAさんにはない」
と主張しました。

このBさんの主張が認められれば、著作権はC本の著者(Cさんとします)にあります。
Cさんが死後50年たっていれば、C本はパブリック・ドメインですから、Bさんの本は著作権侵害とはなりません。

しかし、Aさんは納得できません。
「俺の著作物なのに、どうして……」という思いは、ますます強くなります。


こんな場合、Aさんが「複製権を時効により取得していた」と考えたら、どうでしょうか。
民法にある「自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者」という要件は、Aさんは満たしていそうです。
また、判例の「著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていること」という要件も、満たしていると言えそうです。
それによってAさんに複製権の時効取得が認められ、BさんはAさんの著作権を侵害していた、という結論が導き出された、ということも、ありそうに思います。

いかがでしょうか?


参考記事「知的財産権と時効の関係を問う問題

知的財産権と時効の関係を問う問題

【問題】
時効に関するア〜エの記述を比較して,最高裁判例に照らし,最も適切と考えられるものはどれか。

ア 複製権を時効により取得できる場合がある。
イ 特許権を時効により取得できる場合がある。
ウ 商標権を時効により失う場合がある。
エ 意匠権を時効により失う場合がある。

(23年7月実施)


【解説】
知的財産権と時効の関係を問う問題です。

「時効」とは、『法律学小辞典』によれば、

一定の事実状態が法定期間継続した場合に、その事実状態が真実の権利関係に合致するかどうかを問わないで、権利の取得や消滅という法律効果を認める制度をいう。権利取得の効果を認めるのが取得時効、権利消滅の効果を認めるのが消滅時効である。

ということです。
根拠として、
・長年継続した事実状態を尊重して、法的安定を図ること
・長期間経過によって権利関係の立証が困難になること
・権利の上に眠る者は保護する必要がないこと
等が言われています。

しかし、知的財産権には保護期間の定めがあり、その期間経過後はパブリックドメインとなって誰でも利用できるようになるのだから、時効の適用は必要ない、とも考えられそうです。

では、全く適用されることはないのか、というのが、本問で問われている課題です。



著作権も財産権ですから、民法163条を適用できれば、時効取得できるように考えられます。

民法163条(所有権以外の財産権の取得時効)
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。

そこで参考になるのは、「ポパイ・ネクタイ事件」の最高裁判決です。
(最判平成9年7月17日 民集51巻6号2714頁)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122323439805.pdf

この判決は、次のように述べています。

著作権法21条に規定する複製権は、民法163条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者は、複製権を時効により取得すると解することができる……

ただし、著作権の特徴から、次のような制限を加えています。

……が、複製権が著作物の複製についての排他的支配を内容とする権利であることに照らせば、時効取得の要件としての複製権の継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である。

ちなみに、現行著作権法の立法時の試案では、時効制度を著作権に適用することを否定する規定があったそうですが、結局は条文には盛り込まれずに、解釈にゆだねられた、という経緯があるようです。
著作権は、知的財産権の中でも特に保護期間が長いので、他の権利とは考え方を異にする必要があるともいえるでしょう。

適切


特許権は、登録が権利発生要件となっていますから、公示のない時効取得は、権利の安定性を欠き、認められないと考えられます。
また、取得時効は20年、善意無過失なら10年ですが、特許は公示されるため、無権利者による実施は、過失の推定を受けます(特許法第103条)。
そうすると、特許権の存続期間は出願の日から20年ですから、時効取得する時には特許権は消滅していることが多いと考えられ、実行取得の実効性はほぼないと言えるでしょう。
ただし、特許権も消滅時効の対象にはなります。

不適切


商標権は、不正競争防止法と異なり、周知・著名ではない標章であっても、登録をしてあれば、権利を行使することができます。
そのため、新たな商品(ブランド)を発売したい時や、サービスを始めたい時等、実際に使用する前に予防的に商標登録をしておくことが可能です。
その結果、結局は使わなかった、という登録商標も、ありえます。
不使用商標は、設定登録から10年たって、更新しなければ(商標権は更新することができ、繰り返せば永続的な権利保護が可能)、消滅します。
また、期間満了の前でも、3年間不使用ならば、第三者が「不使用取消審判」を請求することができます。

第50条 (商標登録の取消しの審判)
継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

商標権に消滅時効を認めてしまうと、この制度の意味がなくなりますので、時効によって失う場合はない、と考えられます。

不適切


意匠権の保護期間は、設定登録から20年です。
その期間内に時効によって消滅してしまうとなると、保護期間が定められている知的財産権の趣旨に合わなくなりますから、消滅時効にはかからない、と考えられています。

不適切