時効に関するア〜エの記述を比較して,最高裁判例に照らし,最も適切と考えられるものはどれか。
ア 複製権を時効により取得できる場合がある。
イ 特許権を時効により取得できる場合がある。
ウ 商標権を時効により失う場合がある。
エ 意匠権を時効により失う場合がある。
(23年7月実施)
【解説】
知的財産権と時効の関係を問う問題です。
「時効」とは、『法律学小辞典』によれば、
一定の事実状態が法定期間継続した場合に、その事実状態が真実の権利関係に合致するかどうかを問わないで、権利の取得や消滅という法律効果を認める制度をいう。権利取得の効果を認めるのが取得時効、権利消滅の効果を認めるのが消滅時効である。
ということです。
根拠として、
・長年継続した事実状態を尊重して、法的安定を図ること
・長期間経過によって権利関係の立証が困難になること
・権利の上に眠る者は保護する必要がないこと
等が言われています。
しかし、知的財産権には保護期間の定めがあり、その期間経過後はパブリックドメインとなって誰でも利用できるようになるのだから、時効の適用は必要ない、とも考えられそうです。
では、全く適用されることはないのか、というのが、本問で問われている課題です。
ア
著作権も財産権ですから、民法163条を適用できれば、時効取得できるように考えられます。
民法163条(所有権以外の財産権の取得時効)
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。
そこで参考になるのは、「ポパイ・ネクタイ事件」の最高裁判決です。
(最判平成9年7月17日 民集51巻6号2714頁)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122323439805.pdf
この判決は、次のように述べています。
著作権法21条に規定する複製権は、民法163条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者は、複製権を時効により取得すると解することができる……
ただし、著作権の特徴から、次のような制限を加えています。
……が、複製権が著作物の複製についての排他的支配を内容とする権利であることに照らせば、時効取得の要件としての複製権の継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である。
ちなみに、現行著作権法の立法時の試案では、時効制度を著作権に適用することを否定する規定があったそうですが、結局は条文には盛り込まれずに、解釈にゆだねられた、という経緯があるようです。
著作権は、知的財産権の中でも特に保護期間が長いので、他の権利とは考え方を異にする必要があるともいえるでしょう。
↓
適切
イ
特許権は、登録が権利発生要件となっていますから、公示のない時効取得は、権利の安定性を欠き、認められないと考えられます。
また、取得時効は20年、善意無過失なら10年ですが、特許は公示されるため、無権利者による実施は、過失の推定を受けます(特許法第103条)。
そうすると、特許権の存続期間は出願の日から20年ですから、時効取得する時には特許権は消滅していることが多いと考えられ、実行取得の実効性はほぼないと言えるでしょう。
ただし、特許権も消滅時効の対象にはなります。
↓
不適切
ウ
商標権は、不正競争防止法と異なり、周知・著名ではない標章であっても、登録をしてあれば、権利を行使することができます。
そのため、新たな商品(ブランド)を発売したい時や、サービスを始めたい時等、実際に使用する前に予防的に商標登録をしておくことが可能です。
その結果、結局は使わなかった、という登録商標も、ありえます。
不使用商標は、設定登録から10年たって、更新しなければ(商標権は更新することができ、繰り返せば永続的な権利保護が可能)、消滅します。
また、期間満了の前でも、3年間不使用ならば、第三者が「不使用取消審判」を請求することができます。
第50条 (商標登録の取消しの審判)
継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
商標権に消滅時効を認めてしまうと、この制度の意味がなくなりますので、時効によって失う場合はない、と考えられます。
↓
不適切
エ
意匠権の保護期間は、設定登録から20年です。
その期間内に時効によって消滅してしまうとなると、保護期間が定められている知的財産権の趣旨に合わなくなりますから、消滅時効にはかからない、と考えられています。
↓
不適切
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