【問題】
キャラクターグッズを販売するX社は、キャラクターAが登場するイラストを作成した。ところが、キャラクターAが刺繍されたタオルを輸入業者であるY社がX社に断りなく輸入して販売しようとしていることが判明した。
Y社が輸入しようとしているタオルのイラストは、X社のイラストを一部改変していたものであった。X社の法務担当者甲と乙とのア〜ウの会話を比較して、最も適切と考えられるものはどれか。
ア
甲「わが社のイラストを一部改変しているようだけど、税関が判断に困ったらどうするのかな」
乙「特許権に基づく場合には特許庁長官に意見照会ができる制度がありますが、著作権に基づく場合に文化庁長官に意見照会を求める制度はありません」
イ
甲「わが社のイラストを一部改変しているようだけど、このことについても何かいえないかな」
乙「著作者人格権侵害となるべき物の輸入もみなし侵害とされていますので、著作者人格権による輸入差止申立が可能です」
ウ
甲「わが社のイラストを一部改変しているため、税関の判断には時間がかかるかもしれないね」
乙「迅速な水際措置という趣旨から、一定期間を経過した後は、Y社は担保を提供して認定手続の取りやめを求めてタオルの輸入許可を受けることができます」
(22年11月実施)
【解説】
税関による輸入差止についての諸制度の問題です。
ア
特許庁長官の意見を聴くことを税関長に求めることができる者は、特許権、実用新案権、意匠権に係る権利者及び対象貨物を輸入しようとした者です(関税法69条の17)。
また、育成者権についても、農林水産大臣に対し認定の参考となるべき意見を求めることができます(69条の18)。
ただし、商標権、著作権については、意見照会はできません。
↓
適切
イ
関税法69条の11第1項9号は、著作権、著作隣接権を侵害する物品の輸入を禁止しており、著作権法113条1項1号の規定する著作者人格権、出版権、実演家人格権の侵害物は対象となっていません。
↓
不適切
ウ
認定手続において申立人と輸入者の主張が対立する等の理由で、侵害か否かの認定が容易にできなくなる場合、認定手続が長期化することが考えられるため、輸入できないことによって輸入者に生じる損害の賠償を担保するために申立人に対して相当額の金銭を供託させる制度があります。
ただし本問はこれと異なり、通関解放制度の問題です。これは、輸入差止申立が受理された特許権、実用新案権、または意匠権に係る貨物について認定手続が執られたとき、輸入者は一定期間経過後、税関長に対し認定手続の取りやめを求めることができる制度です。
「通関解放制度」の詳細は、税関HPに解説されていますので、お読みください。
この制度の対象には、アと同じく、商標権、著作権は含まれていません。
↓
不適切
第69条の17(輸入してはならない貨物に係る意見を聴くことの求め等)
特許権、実用新案権又は意匠権を侵害する貨物に該当するか否かについての認定手続が執られたときは、当該貨物に係る特許権者等(特許権者、実用新案権者又は意匠権者をいう。以下この条において同じ。)又は輸入者(当該認定手続に係る貨物を輸入しようとする者をいう。以下この条において同じ。)は、政令で定めるところにより、当該特許権者等が第六十九条の十二第一項(輸入してはならない貨物に係る認定手続)の規定による通知を受けた日(以下この項及び第六十九条の二十第二項(輸入してはならない貨物に係る認定手続を取りやめることの求め等)において「通知日」という。)から起算して十日(行政機関の休日の日数は、算入しない。)を経過する日(第六十九条の二十第一項及び第二項において「十日経過日」という。)までの期間(その期間の満了する日前に当該認定手続の進行状況その他の事情を勘案して税関長が当該期間を延長することを必要と認めてその旨を当該特許権者等及び当該輸入者に通知したときは、通知日から起算して二十日(行政機関の休日の日数は、算入しない。)を経過する日(第六十九条の二十第一項において「二十日経過日」という。)までの期間)内は、当該認定手続が執られている間に限り、税関長に対し、当該認定手続に係る貨物が当該特許権者等の特許権、実用新案権又は意匠権を侵害する貨物に該当するか否かに関し、技術的範囲等(特許法第七十条第一項 (特許発明の技術的範囲)(実用新案法第二十六条 (特許法 の準用)において準用する場合を含む。)に規定する技術的範囲又は意匠法第二十五条第一項 (登録意匠の範囲)に規定する範囲をいう。第九項及び第六十九条の十九(輸入してはならない貨物に係る認定手続における専門委員への意見の求め)において同じ。)について特許庁長官の意見を聴くことを求めることができる。
2 税関長は、前項の規定による求めがあつたときは、政令で定めるところにより、特許庁長官に対し、意見を求めるものとする。ただし、同項の規定による求めに係る貨物が第六十九条の十一第一項第九号(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物に該当するか否かが明らかであるときその他特許庁長官の意見を求める必要がないと認めるときは、この限りでない。
3 税関長は、第一項の規定による求めがあつた場合において、前項ただし書の規定により特許庁長官の意見を求めなかつたときは、第一項の規定による求めをした特許権者等又は輸入者に対し、その旨及びその理由を通知しなければならない。
4 特許庁長官は、第二項本文の規定により税関長から意見を求められたときは、その求めがあつた日から起算して三十日以内に、書面により意見を述べなければならない。
5 税関長は、第二項本文の規定により特許庁長官の意見を求めたときは、その求めに係る特許権者等及び輸入者に対し、その旨を通知しなければならない。
6 税関長は、第四項の規定による意見が述べられたときは、その意見に係る特許権者等及び輸入者に対し、その旨及びその内容を通知しなければならない。
7 税関長は、第二項本文の規定により特許庁長官の意見を求めたときは、その求めに係る第四項の規定による意見が述べられる前に、第一項の求めをした者が特許権者等である場合にあつてはその求めに係る貨物が第六十九条の十一第一項第九号に掲げる貨物に該当しないことの認定を、第一項の求めをした者が輸入者である場合にあつてはその求めに係る貨物が同号に掲げる貨物に該当することの認定をしてはならない。
8 税関長は、第二項本文の規定により特許庁長官の意見を求めた場合において、その求めに係る第四項の規定による意見が述べられる前に、第一項の求めをした者が特許権者等である場合にあつてはその求めに係る貨物が第六十九条の十一第一項第九号に掲げる貨物に該当すると認定したとき、若しくは第一項の求めをした者が輸入者である場合にあつてはその求めに係る貨物が同号に掲げる貨物に該当しないと認定したとき、又は第六十九条の十二第六項若しくは第六十九条の十五第十項(輸入差止申立てに係る供託等)の規定により当該貨物について認定手続を取りやめたときは、その旨を特許庁長官に通知するものとする。この場合においては、特許庁長官は、第四項の規定による意見を述べることを要しない。
9 税関長は、特許権、実用新案権又は意匠権を侵害する貨物に該当するか否かについての認定手続において、第六十九条の十二第一項の規定による認定をするために必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、特許庁長官に対し、当該認定手続に係る貨物が特許権者等の特許権、実用新案権又は意匠権を侵害する貨物に該当するか否かに関し、技術的範囲等について意見を求めることができる。
10 第四項から第六項まで及び次条第五項の規定は、前項の規定により意見を求める場合について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。
第69条の18(輸入してはならない貨物に係る認定手続における農林水産大臣等への意見の求め)
税関長は、育成者権を侵害する貨物又は第六十九条の十一第一項第十号(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物に該当するか否かについての認定手続において、第六十九条の十二第一項(輸入してはならない貨物に係る認定手続)の規定による認定をするために必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、育成者権を侵害する貨物に該当するか否かについての認定手続にあつては農林水産大臣に、同号に掲げる貨物に該当するか否かについての認定手続にあつては経済産業大臣に対し、当該認定のための参考となるべき意見を求めることができる。
2 農林水産大臣又は経済産業大臣は、前項の規定により税関長から意見を求められたときは、その求めがあつた日から起算して三十日以内に、書面により意見を述べなければならない。
3 税関長は、第一項の規定により意見を求めたときは、認定手続に係る育成者権者又は不正競争差止請求権者及び当該認定手続に係る貨物を輸入しようとする者に対し、その旨を通知しなければならない。
4 税関長は、第二項の規定による意見が述べられたときは、前項の育成者権者又は不正競争差止請求権者及び当該認定手続に係る貨物を輸入しようとする者に対し、その旨及びその内容を通知しなければならない。
5 税関長は、第一項の規定により農林水産大臣又は経済産業大臣の意見を求めた場合において、その求めに係る第二項の規定による意見が述べられる前にその求めに係る貨物が育成者権を侵害する貨物若しくは第六十九条の十一第一項第十号に掲げる貨物に該当すると認定したとき若しくは該当しないと認定したとき、又は第六十九条の十二第六項若しくは第六十九条の十五第十項(輸入差止申立てに係る供託等)の規定により当該貨物について認定手続を取りやめたときは、その旨を農林水産大臣又は経済産業大臣に通知するものとする。この場合においては、農林水産大臣又は経済産業大臣は、第二項の規定による意見を述べることを要しない。
第69条の11(輸入してはならない貨物)
次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
十 不正競争防止法第二条第一項第一号 から第三号 まで、第十号又は第十一号(定義)に掲げる行為(これらの号に掲げる不正競争の区分に応じて同法第十九条第一項第一号 から第五号 まで又は第七号 (適用除外等)に定める行為を除く。)を組成する物品
第113条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
一 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為
二 著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、情を知つて、頒布し、頒布の目的をもつて所持し、若しくは頒布する旨の申出をし、又は業として輸出し、若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為
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