【問題】
映像制作会社X社では,劇場公開用映画を製作することになり,X社の企画部の部員甲がその企画立案を行っていたところ,偶然とある小説を発見し,これを原作として映像製作を進行したいと考えた。しかしながら,甲が原作使用権取得のために著作権者を調査したところ,作家はすでに亡くなっており,その著作権継承者の連絡先も不明であった。またこの書籍を発行した出版社も10年ほど前に倒産しており,現在では手掛かりすら掴めない状況であることが判明した。クランクイン予定の日程が迫る中,企画をあきらめきれない甲は映像化実現の可能性について,X社の著作権部の担当者乙に相談したところ,乙は「著作権権利者不明の場合の裁定制度」を利用することを提案した。
裁定制度を利用することになった場合,乙が社内各担当者に準備を指示しておかなければならない内容として,ア〜エの記述を比較して最も不適切と考えられるものはどれか。
ア 裁定が受けられるとしても,申請からは相当の時間を要するので,クランクインの時期を含めた,全体の製作のスケジュールを修正するよう指示する。
イ 一般的な原作使用料の慣行に照らし担保金(あるいは補償金)を製作予算に組み込んでおくよう指示する。
ウ 裁定申請を行ったのち,文化庁長官の裁定が行われる前であっても「申請中利用」の制度を利用して製作作業を進行することはできるので,この制度を利用するかどうかの方針を決定しておくよう指示する。
エ 裁定申請を行った場合,その許諾相談窓口は文化庁に一本化しなければならないので,権利者の調査を即刻に中止し,万一連絡がとれた場合も交渉は一切行わないよう関係部署に徹底するよう指示する。
(23年7月実施)
【解説】
著作物裁定制度を利用する際の準備作業の問題です。
裁定制度については、前に詳しく書きましたので、ここでは省略します。
詳細は、次の『裁定の手引き』をお読みください。
http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-l/pdf/tebiki.pdf
ア
文化庁では、手続きに必要な標準処理期間を3か月としています(ただし、あくまでも目安であって、最近の実績では1か月程度で処理している例も多いそうです)。
↓
適切
イ
補償金の額は、申請のあった著作物等を利用する場合の一般的な利用料金等を参考に、文化庁長官が決定します。著作権法67条では、「通常の使用料の額に相当する」額とされています。
加えて、手数料(1申請あたり13,000円)も必要です。
↓
適切
ウ
著作権法の平成21年改正により、「申請中利用制度」ができました。これは、
「文化庁に裁定申請を行い、文化庁長官の定める担保金を供託すれば、著作者や実演家等が著作物等の利用を廃絶しようとしていることが明らかな場合を除き、裁定の決定前であっても著作物等の利用が開始でき」る、
という制度です。
この制度を利用することによって、裁定の決定を待って利用を開始する場合と比べて、早期に著作物等の利用を開始することができるようになりました。
↓
適切
エ
新設された「申請中利用制度」では、裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間に(つまり裁定を申請して結論が出るまでの間に)、著作権者と連絡をすることができるに至った場合、
「当該担保金の額が……著作権者が弁済を受けることができる額を超えることとなつたときは……その全部又は一部を取り戻すことができる」(著作権法67条の2第7項)
とされています。
ということは、権利者との直接交渉によって、支払う額を担保金以下に抑えることができるかもしれません。権利者の調査を中止し、一切の交渉を行わないとなると、その可能性を排除してしまうことになりますから、払わなくてもよいお金を払ってしまう結果になりかねません。それはもったいないことですね。
↓
不適切
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