2012年6月19日火曜日

著作物の保護期間(戦時加算)についての問題

【問題】
X社では,チェコの有名小説家甲の書籍にあるイラストのキャラクターのアニメーションを日本で制作することを企画している。そのイラストは小説家自身が描いたものであり,小説家甲はすでに1942年に死亡している。その後,2004年にチェコが欧州連合に加盟した結果,同国の著作権の存続期間が延長され,現在小説家甲の著作物は保護の対象となっている。この著作物の利用に関するア〜ウの記述を比較して,最も適切と考えられるものはどれか。

ア この著作物の権利者であった小説家甲の権利は,チェコの欧州連合への加盟により現在保護の対象となっており,権利元から許諾を得ないで制作することはできない。

イ この著作物の権利は日本ではパブリック・ドメインとなっており,商標権等の他の権利が存在していない場合は,制作するアニメーションに関して何ら許諾を得る必要はなく,また制作したアニメーションは日本国内では自由に利用できると考えられる。

ウ この著作物の権利者であった小説家甲が国籍を有するチェコは日本と平和条約の締結国であるため,戦時加算を考慮せねばならない。よって,わが国でパブリック・ドメインになっているか否かは不明であり,X社のアニメーション制作は権利元から許諾を得る必要がある。

(23年7月実施)


【解説】
著作物の保護期間(戦時加算)についての問題です。


我が国の著作権法においては、イラストの著作権は著作者の死後50年しか保護されないのであるから、1942年に死去したイラストレーターの作品の保護期間は1992年までであり、現在、当該イラストは日本国内においてはパブリックドメインとなっている。
従って、許諾を得ずにアニメを制作することができる。
(ただし、イにあるように、商標権等の他の権利が問題になる場合はある)

不適切


アの反対です。問題文のとおりです。

適切


戦時加算は、最長で4413日(約12年。レバノン)であり、もし適用されれば、考慮しなければならないかもしれない。しかし、チェコは連合国ではないので、適用されない。よって、本問において戦時加算を考慮する必要はない。
[参考判例]
東京地判平成10・3・20 チェコ人ミュシャ絵画の著作物の戦時期間加算事件
http://www.translan.com/jucc/precedent-1998-03-20.html

不適切


※〈参考〉戦時加算の詳細な日数

4413日 レバノン
4180日 ギリシャ
3929日 南アフリカ
3910日 ベルギー
3846日 ノルウェー
3844日 オランダ
3816日 ブラジル
3794日 イギリス
        オーストラリア
        カナダ
        ニュージーランド
        パキスタン
        フランス
        セイロン(現スリランカ)
        アメリカ合衆国

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