2012年6月20日水曜日

著作物の裁定制度の問題

【問題】
映像制作会社X社では,劇場公開用映画を製作することになり,X社の企画部の部員甲がその企画立案を行っていたところ,偶然とある小説を発見し,これを原作として映像製作を進行したいと考えた。しかしながら,甲が原作使用権取得のために著作権者を調査したところ,作家はすでに亡くなっており,その著作権継承者の連絡先も不明であった。またこの書籍を発行した出版社も10年ほど前に倒産しており,現在では手掛かりすら掴めない状況であることが判明した。クランクイン予定の日程が迫る中,企画をあきらめきれない甲は映像化実現の可能性について,X社の著作権部の担当者乙に相談したところ,乙は「著作権権利者不明の場合の裁定制度」を利用することを提案した。

ア〜エの項目を比較して,裁定制度の利用申請を行うにあたり,確認しておかなければならない事項として,最も不適切と考えられるものはどれか。

ア 裁定申請の対象となるものは,「すでに公表が行われた著作物」であるので,この小説の発行形態が「公表」にあたるものであるかどうかの確認

イ 裁定申請は,「相当な努力を払っても権利者と連絡することができない場合」であることが前提条件なので,X社の企画部の部員甲の連絡先の調査が「相当の努力」にあたるものであるかどうかの確認

ウ 海外での利用を行う場合は,担保金(あるいは補償金)が対象国ごとに設定されるので,劇場公開とそれに続くビデオグラム化の海外展開予定状況の確認

エ 著作者人格権は裁定の対象に含まれないので,原作者の同一性保持権を侵害しない使い方であるかどうかの確認

(23年7月実施)


【解説】
著作物の裁定制度の問題です。
通常、それほど利用は多くない制度だと思うのですが、知的財産管理技能検定においては、頻出の、重要事項です!

著作権法67条から70条は、
「第八節 裁定による著作物の利用」
を定めています。

「裁定制度」とは、何でしょうか?
概要が、文化庁で次のように説明されています。

他人の著作物や実演(歌手の歌唱や演奏、俳優の演技など)、レコード(CDなど)、放送番組または有線放送番組を利用(出版、DVD販売、インターネット配信など)するときには、「著作権者」や「著作隣接権者」の了解を得ることが必要になります。
しかし、権利者の了解を得て利用しようとしても、「著作権者が誰だか分からない」、「著作権者がどこにいるのか分からない」、「亡くなった著作権者の相続人が誰でどこにいるのか分からない」、「過去に放送された番組に出演した俳優がどこにいるのか分からない」等の理由で了解を得ることができない場合があります。
このような場合に、権利者の了解を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、著作物等の通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより適法にその著作物等を利用することができるのが本制度です(法第67条)。

※出典: 文化庁の説明ページ
「著作権者不明等の場合の裁定制度」
http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-l/index.html


ここは、平成21年の著作権法改正において変更があった条項ですので、要注意です。
具体的には、以下の3点です。
  • 著作隣接権者が不明の場合でも、裁定制度を利用できるようになった
  • 裁定の申請から処分を受けるまで(結果が出るまで)の間に、担保金の供託によって当該著作物を利用できるようになった
  • 67条の「相当な努力」について、次のように具体的に定められた
権利者の氏名や住所等の権利者と連絡するために必要な情報(以下「権利者情報」という。)を得るために以下のすべての措置をとり,かつ,それによって得られた権利者情報等に基づき権利者と連絡するための措置をとったにもかかわらず,連絡ができなかった場合
  1. 広く権利者情報を掲載している名簿,名鑑,検索サイト等を閲覧すること
  2. 広く権利者情報を保有している著作権等管理事業者,出版社,学会等に照会すること
  3. [1]日刊新聞紙への掲載又は[2]社団法人著作権情報センターのウェブサイトへ30日以上の期間継続して掲載することにより,公衆に対して権利者情報の提供を求めること


改正の概要は、次のページにまとめられています。
「平成21年通常国会 著作権法改正等について」
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/21_houkaisei.html


これらを踏まえたうえで、本問の解説をしていきます。
まず著作権法67条(著作権者不明等の場合における著作物の利用)1項の条文を見ておきましょう。

公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合は、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。



公表またはそれに準ずることが要件の一つになっていますので、「公表」されているかどうかの確認は大切です。

適切


「相当な努力」を払ったことが要件になっていますが、その「相当な努力」とはどういうものか、上記のとおりに定められましたので、これに当てはまるかどうかの確認は、大切です。

適切


海外における著作物の利用については、原則として我が国の著作権法の効力が及ばないので、裁定制度の適用を受けることはできません。

不適切


裁定の対象になるのは、著作(財産)権と著作隣接権です。著作者人格権は含まれませんので、注意してください。もし人格権にまで裁定制度の適用を認めてしまうと、人格権の趣旨が損なわれてしまうでしょうね。

適切

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