2012年11月10日土曜日

民法の、契約の有効性に関する問題

【問題】
次の1〜3の記述を前提に、契約書の効力に関するア〜ウの記述を比較して、最も適切と考えられるものはどれか。


マンガ作家甲は、高校時代からすでにマンガ雑誌への連載を行っていたが、当該連載について、18歳だった当時、自分の父親がマンガ雑誌の出版社と交わしていた出版契約書Aを発見した。甲はその存在につき、全く了知していない。


マンガ作家乙は、22歳当時、出版社と交わした出版契約書Bを発見した。著作権者は乙で、自筆でサインし捺印もしている。ところが、よく見ると、出版社としては当時の編集者の個人名が記載されている上、署名欄には出版社の編集部のゴム印と、編集者の三文判が押されているだけである。


マンガ作家丙は、27歳であった5年前に節税対策のために有限会社Xスタジオを設立し、自己の作品の著作権はすべてXスタジオに移転している。ところが、丙は、2年前に旧作を文庫版で出す際に、妻が出版社と交わしていた出版契約書Cを発見した。丙はその内容につき、全く了知していない。


ア 出版契約書Aは甲が未成年のときに取り交わされたものであるので、成人した甲は上記1の契約を取り消すこともできるが、追認も可能である。

イ 上記3の契約は、代理人である妻が本人の承諾を得ていないでした意思表示であり、丙はこれを取り消すことが可能である。

ウ 上記1、2、3の契約のいずれも、有効なものと認められる可能性がある。

(22年11月実施)


【解説】
民法の、契約の有効性に関する問題です。


未成年は民法において、制限(行為)能力者として、単独では完全な法律行為ができない者とされています。そのため、特定の行為を除き、法定代理人の同意を得ないでした行為は、取り消すことができます(5条)。
追認によって取消権の放棄をして、法律行為の効果を確定させることもできます(122条)。
しかし本問において出版契約書Aは、父親が交わした契約書であって、甲自身の法律行為ではないから、取り消しはできません。

第5条(未成年者の法律行為)
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

第122条(取り消すことができる行為の追認)
取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。

第20条(制限行為能力者の相手方の催告権)
制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。


不適切


日常家事債務として、有効とされる可能性があります。
「日常家事債務」とは、民法761条に規定されています。

第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

すなわち、
「通常は、夫婦の一方が、夫婦の生活共同体を代表して法律行為を行うことが多いが、それが日常の家事活動の範囲内のものであるときは、夫婦の他方も連帯責任を負うことになる」(法律学小辞典第4版)
ことをいいます。
例えば、住居を借りたり、日用品を買ったり、近所付き合い、子の教育等です。

不適切


契約とは、契約書を作成しないと成立しないのではなく、一般には口頭で意思を確認し合った段階で、成立します。
 
「契約は相対立する二個の意思表示の合致した法的行為であって、債権の発生を目的とするもの」
(我妻栄・有泉亨・川井健『民法2』勁草書房、207ページ)
です。すなわち、申し込みと承諾によって成立するものであって、書面を交わす等の方式は、決められていません〔方式自由の原則〕。

つまり、口約束でも契約は有効なのです。
では契約書はどういう役割かというと、裁判になった時の証拠となるにすぎません。
ですので、一般論から言えば、2も有効になると言えます。

適切

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