2012年4月20日金曜日

テレビドラマのビデオグラム化に関する実演家の権利の問題

【問題】
テレビ局であるX社では、人気俳優である甲の芸能生活30周年を記念して、甲が出演している作品のうち、X社が制作した過去のテレビドラマを記念DVDとしてビデオグラム化して発売する予定である。

X社がDVDの発売を企画した理由に関するX社の社員のア〜エの発言を比較して、最も適切と考えられるものはどれか。

ア 「甲の権利は、いわゆるワンチャンス主義で制限され、自由に使えるからね」

イ 「他局で制作された甲の出演したドラマの著作権について、他局から許諾を受けられたから大丈夫だよ」

ウ 「甲は、当社と出演時に専属契約を結び、現在も当社に権利があるからね」

エ 「甲の許諾も得られたし、甲の出演したドラマを制作したのは当社だからね」

(22年11月実施)



【解説】
テレビドラマのビデオグラム化に関する実演家の権利の問題です。

放送をビデオグラム化する際、俳優(実演家)の著作隣接権や、素材(音楽等)の著作権は、よく問題になっています。
本検定でも、問われる可能性が極めて高いAランク問題です。

まず、「ワンチャンス主義」とは何か、まとめておきましょう。
文化庁が公開しているマニュアル、テキストには、次のように書かれています。

*   *   *   *   *
演奏や上演を著作権法上は「実演」といい、演奏や上演をする人を「実演家」といいます。
著作権法上、実演家の了解を得て映画の著作物(劇場上映用以外の映像作品も含みます。)に録音・録画された実演について、実演家はその後の利用に関する権利が原則として制限されています。したがって、最初に録音・録画するときの契約が大変重要になってきます。最初の1回の契約でその後の実演の利用までを念頭においた契約条件を決めておく必要があるという意味で、「ワンチャンス主義」といわれることがあります。
「誰でもできる著作権契約マニュアル」
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/keiyaku_manual/2_2_2.html

「映画の著作物に録音・録画された実演」の場合,俳優などの実演家の了解を得て録音・録画された実演は,原則として,権利がありません(第91条第2項,第92条第2項,第92条の2第2項)。
文化庁長官官房著作権課『著作権テキスト 〜 初めて学ぶ人のために 〜』平成21年度
*   *   *   *   *

つまり、実演家が一度録音・録画を許諾したならば、その実演が収録された録音・録画物を複製することに対し、権利を及ぼすことができない(=イヤと言えない)のです。
ではテレビドラマはどうなのか。
出演時に、実演家と制作側が、どういう契約を交わしているのかが問題になります。


テレビドラマは、一般に録音・録画の許諾を受けず、放送の許諾だけを得ています(放送のための録画はOK。著作権法93・94条)。ビデオグラム化するには、録音・録画の許諾が、別途必要になってきます(放送はワンチャンス主義によって、可能です)。

不適切


別のドラマについての権利と、本問ドラマについての権利は別です。当たり前ですね。
ドラマについて著作権の許諾を得られたとしても、甲の、実演家としての著作隣接権の許諾は得ていませんから、「大丈夫」ではありません。

不適切


「専属契約」といっても、その内容は不明ですし、職務著作と言える(?)かどうかは検討の余地がありますので、「最も適切」とは言えないでしょう。

不適切


ドラマを制作した時点で、その素材についての著作権処理は解決していると考えられ、さらに実演家たる甲の許諾も得ているので、問題ないと考えられます。

適切

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