テレビ局であるX社では、人気俳優である甲の芸能生活30周年を記念して、甲が出演している作品のうち、X社が制作した過去のテレビドラマを記念DVDとしてビデオグラム化して発売する予定である。
過去に放送されたテレビドラマのDVD制作にあたり、ア〜エの項目を比較して、X社が新たに許諾を得る必要のないものとして、最も適切と考えられるものはどれか。
ア 日本脚本家連盟に著作権を信託している脚本家が書いたドラマの脚本に関する権利
イ ドラマで使われている明治時代(1868年〜1912年)に撮影されて公表された風景写真に関する権利
ウ ドラマに出演し、テレビ放送を許諾した俳優の実演に関する権利
エ ドラマで主題歌として使用している市販CDに収録されている曲に関する権利
(22年11月実施)
【解説】
ここから、主に著作隣接権(実演家の権利)の問題になります。
まず、「ビデオグラム」とは何でしょうか。
JASRACの規定によれば、「ビデオテープ、ビデオディスク、DVDなどに映像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいう」とあります。
一般にはあまり使いませんよね。
ア
著作権法2条1項15号に、次のように規定されています。
「複製──印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物──当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。」
脚本は、これを上演して録画することが、「複製」になるのです。
ということは、本問脚本家の複製権につき、許諾が必要になります。
↓
不適切
イ
写真の著作物の保護期間は、現行著作権法施行時は"公表後"50年とされていました。
それが平成8年(1996)改正により、著作者の"死後"50年となりました。
しかし旧著作権法では、発行後10年であり、暫定的に13年まで延長されはしましたが、いずれにしろ昭和31年(1956)以前に発行された写真の著作権は、消滅しています。
↓
適切
ウ
著作権法93条は、「放送のための固定」として、次のように規定しています。
「実演の放送について第92条第1項に規定する権利を有する者の許諾を得た放送事業者は、その実演を放送のために録音し、又は録画することができる。ただし、契約に別段の定めがある場合及び当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的で録音し、又は録画する場合は、この限りでない。
2 次に掲げる者は、第91条第1項の録音又は録画を行なつたものとみなす。
一 前項の規定により作成された録音物又は録画物を放送の目的以外の目的又は同項ただし書に規定する目的のために使用し、又は提供した者」
92条1項とは何かというと、実演家の「放送権及び有線放送権」を規定した条文です。
「実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する」
つまり実演家は、放送権を有しています。
第三者が無断で放送を行うと、放送権の侵害になります。
本問ではテレビ放送を許諾していますから、テレビ局は「第92条第1項に規定する権利を有する者の許諾を得た放送事業者」になります。
テレビ局は、放送のために録画することはできます。
ところが、その「放送のための録画」を、「放送の目的以外の目的」、例えばビデオグラム化するという目的のために使用・提供すると、"91条1項の録画"に当たるのです。
では"91条1項の録画"とは何か。
91条には、「録音権及び録画権」として、
「実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する」
と規定されています。
従って、実演家が専有する録画権を、テレビ局X社が行使(→無許諾だから侵害)することになるのです。
↓
不適切
エ
著作権法91条は、実演家の「録音権及び録画権」として、次のように規定しています。
「実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
2 前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。」
本問で問題となるのは、2項でしょう。
これは、実演家の録音権が及ばない場合が規定されています。
映画の著作物において録音された実演を、録音物に録音する場合は、1項が適用されます。
つまり無許諾では行えない、ということです。
ただし音を専ら映像とともに再生することを目的とするものは除かれていますから、ビデオグラム化する場合は除かれる(=無許諾で行える)ようにも読めます。
ところが、本問で問題になっている権利は、「曲に関する権利」なのです。
ということは、著作隣接権ではなく、著作権が問題となります。
たとえこのCDに収録されている局をドラマで主題歌として使用することを許諾されていたとしても、それをビデオグラム化(=複製。2条1項15号)することまで許諾されているかどうかは、本問からは明らかではありませんが、通常はなされていないと考えるべきでしょう。
著作権につき、許諾を得る必要がない場合とは、30条以下に規定されている「著作権の制限」規定に当てはまるかどうかです。
私的使用や引用、非営利利用等、どうやら該当するものはなさそうです。
↓
不適切
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