2012年5月12日土曜日

委託契約における著作権の帰属の問題

【問題】
契約書を読んで、その内容について答える問題です。
ただし、長文の契約書を全部載せるというわけにもいきませんので、ここでは省略します。
問題文が手元にある方は、それをごらんください。
私の手元にもありますので、ご希望の方は、メールを下さい。

┌────────────────────────┐
│ソフトウエア開発委託契約書                      │
│                                                │
│株式会社X社(以下,「甲」という。)と,        │
│株式会社Y社(以下,「乙」という。)とは,      │
│コンピュータソフトウエアの開発業務の委託に関し,│
│以下の通り契約する。                            │
│(以下略)                                      │
└────────────────────────┘
X社はY社に対し,会計用のソフトウエアの開発を依頼したところ,先方から契約書のドラフトが提供された(なお,本問に関係のない部分については一部省略してある)。この契約書について,X社の担当者である丙と丁が会話している。ア〜エの会話を比較して,最も不適切と考えられるものはどれか。


丙 「開発委託契約は委任契約と請負契約のどっちにあたるんだろう。」
丁 「この開発委託契約は民法上の請負契約に該当し,仕事の目的物の引渡が報酬の対象行為となるから,著作権の移転に関する条項がなくても,開発されたソフトウエアの著
作権はソフトウエアの引渡を受けた時点で当社に移転するよね。」


丙 「『著作権は原始的に甲に帰属する』という条項を入れてはどうかな。」
丁 「著作権法によれば著作者は『著作物を創作する者をいう』から,創作をしていない当社が原始的な著作者になることを意味するこの規定は無効になる可能性があるね。」


丙 「完成したソフトウエアの著作権をY社と当社の共有とした場合はどうだろう。」
丁 「その著作権のX社の持分を譲渡する場合には,Y社の同意が必要になるね。」


丙 「第26条の誠実協議条項って法的な効果はあるのかな。」
丁 「実際に問題が生じたときには,裁判所はこれを強制することはできないよね。」

(23年7月実施)


【解説】
委託契約における著作権の帰属の問題です。


まず、「委任契約」と「請負契約」の違いを見てみましょう。
『法律学小辞典』(第4版)によれば、

■委任契約:当事者の一方(委任者)が他方(受任者)に対して事務の処理を委託し、他方がこれを承諾することによって成立する諾成・不要式の契約。結果の完成を必ずしも必要としない点で、仕事の完成を目的とする請負とは区別される。受任者は、委任の本旨に従い善管注意義務を負う。受任者は原則として自ら委任事務を処理しなければならない。

■請負契約:当事者の一方(請負人)がある仕事を完成させ、他方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約。有償・双務・諾成・不要式の契約である。仕事の完成を目的としている点で、雇傭や、事務処理を目的とし必ずしも結果の完成を必要としない委任と区別される。
請負人は、仕事を完成し、引き渡す義務を負う。仕事の完成は、仕事の性質又は特約により請負人が自ら労務を供することを必要とする場合のほか、第三者を使用し、又は下請負に出すこともできる。仕事の目的物に瑕疵があるときには、請負人は担保責任を負う。

委任・請負のいずれにおいても、職務著作に当たらない限り、当該ソフトウエアの著作権は開発者たる乙に帰属します。

不適切



職務著作に該当すれば、甲が著作者となるかもしれませんが……

適切

※著作権法15条
1 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づき
その法人等の業務に従事する者が
職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、
その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、
その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、
その法人等とする。

2 法人等の発意に基づき
その法人等の業務に従事する者が
職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、
その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、
その法人等とする。



共同著作物の著作権その他共有に係る著作権については、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持ち分を譲渡し、又は質権の目的とすることができません(著作権法65条1項)。

適切



理想的な契約書は、可能な限り事前に全ての条件が規定されているものです。誠実協議条項のような無意味な条項は、欧米ではかえって実務能力を疑われることもあります。

適切

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